レビュー:「万引き家族」

「三度目の殺人」「海街diary」の是枝裕和監督が、家族ぐるみで軽犯罪を重ねる一家の姿を通して、人と人とのつながりを描いた「万引き家族」。2018年・第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、日本映画としては「うなぎ」(1997)以来21年ぶりとなるパルムドールを受賞した。

冒頭で万引きする祥太をみながら、ロベール・ブレッソンの「スリ」(1959)を思い出した。
プロの俳優ではなく素人を起用したこの作品は、貧しい青年がスリにのめり込んでいくストーリーで、社会への反抗や、他者との隔たりを感じる若者の苦悩など、様々な要素を内包している。さらにスリを働く青年の美しい手さばきも有名だ。
それに比べるとまだまだ拙い祥太の万引きだが、「スリ」の青年と違って彼には帰るべき家があり、家族がいる。
この映画を観て、家族のあり方や意味を考える人も多いだろう。
しかしそれ以前に、彼らの生活をみて「羨ましい」と感じる人が少なからずいるのではないだろうか。彼らは互いの利害が合致してそこに集まっているに過ぎないのだが、ひとところに集まり寝食を共にする、そのことが家族たらしめる行動だと捉える人もいないとは言い切れない。
2015年ごろのデータに基づくと、日本に無戸籍者は少なくとも1万人ほどいると推定されている。
「万引き家族」は決して突飛な設定ではなく、そもそも家族はおろか国から捜索されることもなく学校に通うこともなく成人してしまう人々が実際に存在しているのだ。もちろん万引き家族の登場人物とそれはイコールではないのだが、血の繋がりや「家」を家族の単位として主張する声に、ふと無戸籍者の問題が頭をよぎった。

(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

とはいえ、大半の人は血のつながりのある家族を家族と呼び、その集団のなかで生まれ育ち、万引きせずに済む家庭で育つのだろう。
だから、この映画から家族とは何か、どうあるべきなのかということを考えることよりも、自分たちの属する今の社会が「万引き家族」を許容できるのかどうかという点を一つの問題提起として考えることも必要ではないだろうか。

善悪は別として、万引きをする子どもはいつの時代もおそらく一定数存在する。
その子どもに対して、大人は目をつむるのか、警察に通報するのか、あるいはひとまず事情を聞いてみるのか、様々な選択肢があるだろう。
そう考えたときに、万引きはもちろん罪だとしても、それを遂行しなかった場合にその子どもがどうなってしまうのかを想像する余地が少し前の日本にはあったかもしれないが、今日ではそういったことに対する社会の許容がどんどん狭まっているように思う。
万引きが罪であることには変わりないので、それらが撲滅された状態というのがクリーンな社会であることは間違いないし、そもそも子どもが万引きをせずに暮らしていける社会になればそれが一良いのかもしれないが、仮にそうなったとしてもやはりどこかでしわ寄せを受ける人が生まれるだろう。

万引き家族が罪を犯す集団であることには違いないが、それを善とするか悪とするかということよりも、彼らの集団自体が一つのセーフティネット的な役割を担っていたことに注視すべきだ。
彼らが果たして本当に家族だったのかどうかということを考えるならば、彼らが家族でなかったら彼はどうなっていたのかを考えることも重要ではないだろうか。

(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

■万引き家族
■公式HP:http://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku/
■上映時間:120分
■監督:是枝裕和
■脚本:是枝裕和
■製作:石原隆
依田巽
中江康人
■キャスト
リリー・フランキー:柴田治
安藤サクラ:柴田信代
松岡茉優:柴田亜紀
池松壮亮:4番さん
城桧吏:柴田祥太