短評:『運命は踊る』

運命こそが最大のミステリー。残酷な誤報が家族の運命を翻弄する。『レバノン』(金獅子賞)に続き、本作で第74回ヴェネチア国際映画祭審査員グランプリを受賞した、イスラエルの名匠サミュエル・マオズ監督最新作。

(C)Pola Pandora – Spiro Films – A.S.A.P. Films – Knm – Arte France Cinema – 2017

2008年に発生した秋葉原通り魔事件。あの日私は、はじめて秋葉原の地を踏んだ。
事件が起きる30分ほど前に到着し、友だちと改札内で合流して電気街口に出るか、昭和通り口に出るか迷って、結局駅ビル内で先に食事を済ませることにした。
そして、食事が済んだら電気街口の方に向かおうかと話していた矢先に事件が起きる。

多分、こういうことは生きていれば二度三度ある話なのかもしれないが(バイト先の上司も同時刻に秋葉原にいたそうだ)、自分にとって危機一髪というか、もしかするとあのとき自分のや家族の運命、どちらからだったかはもう忘れてしまったが、その日その場所に行こうと誘った自分あるいは相手の運命が変わっていたかもという意味で分りやすい物語としてあるのが、この一件である。

この映画は、そういう「もしかするとあのとき」が層になった話だ。
あのとき、息子を帰還させていなければとか、あのとき息子を産んでいなければ、あのとき道を譲らなければ、などと言ったタラレバの連続が彼らの運命であり、それはまるでフォックストロット(社交ダンスのスタイルの一つ)のように元の場所に戻ってくるとミハエルは語る。

(C)Pola Pandora – Spiro Films – A.S.A.P. Films – Knm – Arte France Cinema – 2017
(C)Pola Pandora – Spiro Films – A.S.A.P. Films – Knm – Arte France Cinema – 2017

見る角度を変えれば誰のせいでもない、それぞれが偶発的に起きた事象でしかないのだが、ミハエルが過去に負った心の傷がそう考えることを許さない。
そういった複雑な心境をまさに投影するかのような、緻密に計算されたカメラワークがときに不穏な動きをみせながら観るものを圧倒する。人物の心情やその場の緊張感を代弁するかのような丁寧に撮られた映像、戦場で息子・ヨナタンが踊るシーンや後半のアニメーションなど、映画の可能性を無限に感じることの出来る作品だ。

(C)Pola Pandora – Spiro Films – A.S.A.P. Films – Knm – Arte France Cinema – 2017

■『運命は踊る』(原題:Foxtrot)
http://www.bitters.co.jp/foxtrot/
■監督:サミュエル・マオス
■製作年:2017年
■製作国:イスラエル・ドイツ・フランス・スイス合作
■配給:ビターズ・エンド